教会裏の石段に腰かけてじっと夜風にあたる彼を見つけたのは、夜半も過ぎた頃でした。
私が隣にお邪魔しても、しばらく何も言わず眼を閉じていた彼が口を開いたのは、東の空がぼんやり白んできた頃。
「……悪りぃ」
胸につかえていたものをようやく吐き出したという感じで、零れた一言。
「どうして謝るんです?」
「なんとなく」
それ以上は聞こうとは思いませんでした。それだけ聞ければ十分でした。
何かあったんだろうなとは、一目見てすぐにわかってはいたけれど、それを口に出す人じゃない事もわかっていたから…。
話したければ自ら話すでしょうし、話す気がない事を詮索されるのはきっと嫌がるでしょう。
それでも、わざわざこんな場所まで”私を”訪ねて来てくれた。
なんだかそれだけで胸がいっぱいなんです。
すごく不器用な人だから、きっと色んな人とぶつかり合って、折り合いがつかなくて、様々なものを抱え込んでしまうのでしょう。
すごくプライドの高い人だから、誰かに頼るなんてことも出来ずに、全てを一人で背負って頑張ってしまうのでしょう。
本当は、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも正義感が強くて、誰よりも優しい人なのに。
それを自分じゃ絶対に認めない…そんな人だから、余計にこんなにも愛おしく感じるのかもしれません。
私は、冷え切った肩を少し暖めるぐらいのことしかできないけれど。
それで彼の眉間に深く刻まれた皺の数を減らせるのなら、こんなに嬉しいことはありません。
そっと頭を乗せた彼の肩は最初随分冷たく感じたけれど、彼がほんの少し頭を傾けて寄せてくれた頬は、すごくすごく暖かくて―。
Comments are closed