
己自身とコイツだけ。
《人は裏切る。神などいない。
天使【Angelo】と名付けられた子も、地獄へ堕ちた。
地獄に天使は似合わない。故に男は名前を捨てた》
#騎士失格の六人 #騎士失格の六人_sideDesperados #一次創作
SS『最初の罪、最後の親孝行』
あの薄汚いアル中は、とうとうヤク中にまで成り下がっていた。
己の息子に跪き、無様に命乞いをする、かつての父。
(…顔すら忘れたのか)
冷めた視線で見下ろす”それ”に、もはや特段何の感情も感傷も湧いてこない。
「… Addio, papà(あばよ、父さん)」
引き金は、思っていた以上に軽かった。
あつらえた一張羅が、返り血で汚れたのが癪だった。
《おめでとう。これでお前も今日から正式に”名誉ある男”だ》
『騎士失格の六人/最初の罪、最後の親孝行』
SS『同類』
寄せて返す波の音。港の岸壁に飛沫がはじける夜の海。
つい昨日まで命のやり取りをした相手が、目の前にいた。
命を狙う理由がなくなれば、互いに静かなものだ。
散歩中の邂逅。姿を見つけて黙って近づいた。振り返るどころか視線すら寄越さない。
こちらに敵意がないことも、何もかも多分全部わかっているのだろう。
「…俺はあんたみたいにカッコよくは生きられねえよ」
煙草の煙を燻らせながら、ふいに呟く。
先に沈黙に耐えられなくなったのは、自分だった。
「…あのボンボンみてえなこと言いやがって」
返ってきたのは、舌打ちと共に吐き捨てられた、静かな苛立ち。
何気ない一言のつもりだったが、何か気に障ったのだろう。
思わず「えっ?」と声の主を見やる。
男は、昏い水面に映る月を見つめたまま、黒髪を潮風に揺らしているだけだった。
「お前ら、ほんと仲いいのな」
こちらを一瞥することもなく、呆れた調子ではぐらかされる。
何が言いたいのだ。今度はこちらが苛つく番だった。
「何の話?」
「なんでもねえよ」
問おうにも、男はそれきり口を開くことはなく、そのまま踵を返して夜の街へ消えた。
「何だってんだよ…」
消化不良を起こした様で、気分が悪い。
何が言いたいのか、大体わかってしまう自分にも苛立った。
自ら認めるのはあまりに癪だ。否定すらさせまいと、背中で告げられた気がした。
『騎士失格の六人/同類』
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